日本の民話・とんち話
                                                                                                    
       
1月7日
ど く ろ を か つ い で
「京都には、一休禅師というえらい坊さんがいるそうな。」
   「だけど、ちょっと変わっているそうだ。」
   こわれそうな小屋に住み、きたないかっこうしてなりふりかまわず、
   町や、村人達に悪い考えや、まちがったことをしている人達の
   心の病をなおしてあるきました。
   これはー休さんが大きくなって立派なお坊さんになってからのお話です。
 「あけましておめでとうございます。」   
  「今年もどうぞよろしくお願いします。」と人びとが、挨拶をかわしている正月の朝。
   初もうででにぎあう町通りを、きたない身なりの坊さんが一人やって来ました。
   一休さんです。それも、どうしたことでしょう、長い竹ざお一本高だかかついでいるのです。、
   その先っぽに、なにか白いものがくっついています。
  「なんだい、あれは。」よくよく見ると、それはどくろ(人間の顔の骨)なのです。
人々は、気味悪いどくろを見上げて、びっくりしたり、いやな顔をして、
「ちぇつ、お正月そうそう、なんと悪ふざけをする坊主だ。」、
「一休さんは頭でもおかしくなったのかな。」と口ぐさにさわぎました。
  なんといわれようと、一休さんは気にせずすました顔で、どくろをかついで歩いています。
ものずきな人達は、一休さんのうしろから、わいわいついて来ました。
やがて一休さんは、一番の金持の金屋久衛さんの立派な屋敷の前に立つと、大声で
「たのもう、たのもう、一休が正月のあいさつにまいりました
  といいました。家の中から人が出て見ると、きたない身なりの一休さんが、
気味の悪いどくろをつけた竹ざおをつきたてているので、
こしをぬかさんばかりに、おどろきました。大あわてで、主人にしらせました。
いつもうやまっている一休さんが、わざわざあいさつにやって来たと聞き、
  主人は、かしこまって門のところまで、いそいそと出てきました。
「やあ、これはこれは、久衛さん、あけましておめでとう。
「はいはい、一休さん。これはどうもごていねいに、・・・ことしもどうぞ宜しく。
あいさつをして、ひょいと竹ざおの先のどくろを見たとたん、
「あっいったまま、まっさおになりました。
  「も、もし、一休さん、これはいったいどうしたことですか。正月そうそう、
どくろを持って来るなんて、ほんとにえんぎが悪い、いったいどういうことです。」、
久衛さんはおこったように言いました。しかし一休さんはまるっきりむとんじゃくです。
「わつはっはっは・・・・。」お腹をゆすって笑うと、
  「まあまあ、久衛さんや、正月そうそうおどろかしてすまん。これにはわけがあるのじゃ。
「どんなわけですか。」 「うむ、そのまえに、わしがつくった歌を聞いてほしがのう。」
一休さんは、そういうと声高らかに歌をよみ上げました。
正月は めいどのたびの 一里塚 めでたくもあり めでたくもなし
「めでたくもあり、めでたくもなし。一休さん、これはどういうことでしょうか。
大金持の主人は目をパチクリさせて、たずねました。、
 「誰でも、正月がくると、一つずつ年をとる。ということは正月が来るたびに、
それだけめいどへ近づく、つまり死にちかつくわけになる。
だから正月がきたといって、めでたがってもいられない。
それで、めでたくもあり、めでたくもなしもなしじゃよ。」 「ははあ、なるほど。」
「どんな人でも、必ずいつかは死ぬ。そしてこのようなどくろになりはてる。
こういうわたしだって、あと何回正月を迎えられるかわからん。
 あんたもおなじじやよ。  「は、はい。」
久衛さんや、生きているうちに、たんといいことをしなされや。
そううすりゃ、極楽へ行かれるからの。」 「は、はい」
「あんたは大金持ち。あまっているお金は、困っている人たちにあげなされ。
めいどまで、お金はもっていけませんじゃろ。はい、おやかましゅう、さいなら。」
お金持ちの久衛さんをはじめ、大勢の金持が、この一休さんの教えをまもって、。
 まずしい人びとをたすけたいということです。また、一休さんに、
お寺を建ててください。」とお金をもってきても、一文も受取らなかったそうです。
                                終わり