奈良の昔話

8月25日(土曜日)                     
お に 女 房

むかし、十津川の山の中に、たいへんけちな男がいたそうです。
どのくらいけちかというと、男は長いことお嫁さんも、貰うわなかったのですが、
それというのもご飯を食べさせるのがもったいなかったからです。ところが、
いろいろふじゅうなので、「どこかにご飯を食べない嫁さんはいないかなお」
と言って歩いていました。するとある晩、可愛らしい娘がたずねてきて
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「道にまよいましたので、今晩とめてくださいな。」というではありませんか。
「泊めてあげても良いが、うちはご飯は出さないことにしているけど、それで良かったらどうぞ、」
「はいわたしはご飯はいつも食べません。」それを聞いた男は、喜んで泊めてやると、
頼んで嫁さんになってもらったそうです。その娘は「はいはい。」と、
すなおにいうことはきくし何日たってもご飯を食べる様子もないので、

男は、「いい嫁をもらった。」とますます精だして働きました。
ところが、納屋にしまってある米が、どんどんへっているようなので、
「おかしいなあ、きょうは山仕事を休んで、みとどけることにしよう。」と男は、
天井うらにかくれてのぞいていました、すると、むこどのを送りだして安心した嫁は、
   納屋からこめをかついでくると、大釜いっぱいごはんを焚き始めたてはありませんか。

ほっかり焚きあがると、にぎりめしを沢山こしらえて、両手に持ってはぱくぱくたべました。
そして大釜のご飯をぺろりとたいらげてしまうと、横になって眠ってしまいました。
男はもうビックリして出てくると、「この村では正月か病気の時でないと、
米のご飯は食べないし、それもほんの少しあじわって食べるだけだ、
それがおまえときたら、あきれたものだ。」出ていけと言いますと嫁はにっと笑って、
「見つかったら、仕方ない。わしは山へ帰るが、手土産におけを貰えないだろうか。」

男が桶をわたすと、女は、桶の中へ男をほうりこんで「このバカ。けちバカ。」と
ゲタゲタ笑って走りだしました。走りながら女は、おそろしい鬼の姿になったから、
男は、桶の中で、ただぶるぶるふるえていました。「どうかして助かりたいなあ。」
いっしんにいのっていると、大雨がふりだして、桶の中にどんどん水がたまり始めました.、
その時ですタニワタリフジという、ふじづるが男の頭の上にたれさがったので、

男はそれにぶらさがって逃げました。鬼は雨水で桶が重いので逃げ出したのに気がつきません。
それで男は、こわいものもわすれて、あとをつけていきました。すると、
大きな岩のほらあながあって、鬼の子供が10匹ばかり、遊んでいました。
「今、帰ったよ。おいしいおみやげを持ってきたから、いい正月ができるぞ。」
鬼は、ドンと、おけをおろして中をのぞくと、からっぽです。「ありゃ、魚が逃げてしまったよ。

明日の朝、みんなでつかまえにいこうなあ。」 男は青くなって帰るとむらの人をあつめて、
「まあ聞いてくれ。」とわけを話しました。皆は、男の家で、鬼のくるのをまつことにしました。
いろりにはかんかんに火をおこしてかくれていると、夜あけに、「道にまよいました。
ちょっと中で休ませてくださいな。」と若い女の声がします。「それきた、やれきた。」
と、だまつていると、「ふん、やっぱりあそこからはいるしかないか。」と恐ろしい声がして

屋根がミシッときしんで、屋根裏の煙だの隙間から、小さいクモが一匹、するっと、
自在カギを伝っておりてきました。子鬼にちがいないと男は、パッと火の上に、
はたきおとしました。鬼の子はジュンとやけ死にました。「上手くいったか。」
上から鬼の声がするので、男はとぼけて、「みんな早くおりてこい。」
それを聞いた九匹の子鬼のクモと、一匹の大きいクモが、ぞろぞろすーっと、

自在カギをつたうとおりてきたので、まちうけていた村のみんなが、
「今だ。」と、つぎつぎ、パッパッと、火の上にはたきおとしてしまいました。
男は、「これで安心だ。」とつぶやいて、「わしは、本当に鬼のいうとおりに、
けちばかだったなあ。」と村の皆にいったそうです。それからは、けちな男も、
普通にご飯を食べる嫁を貰って、一生懸命働きました。
そうそう、男を助けたタニワタリフジを、この村では誰も切らなくなりました。
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