奈良の昔話

9月01日(土曜日)                                
(笑う)と言う字のおこり
     
むかし、弘法大師は、いろいろな文字をこしらえては、人々に教えていました。
 ところが(わらう)という字をこしらえようと、考えておりましたが、よい考えがうかびません。
「なにかよい知恵はないもにか。」と、思いめぐらせておりました。すると、
急に寺の外で、けたたましく犬のほえ立てる声がします。弘法大師は、外に出てみると、
貧しい身なりの旅のお坊さんが、犬にほえつかれていました。お坊さんは、
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犬が嫌いか杖をふりあげています。さすがの犬も尻ゴミごみをして逃げだしました。
犬もあわてて逃げだしたのか、そばにあった竹カゴにつまずいたので、竹カゴは跳ね上がり、
犬の頭にすっぽりと覆ってしまいました。目が見えなくなった犬は、
そこらをぐるぐるとはしり廻ります。通りかかった人々が、
「これはおもしろい、犬が踊っている」と、腹をかかえてわらいました。

犬も何事かと、ますます竹カゴの頭をふりまくって、あっちを向いて「ワンワン」
こっちを向いては「ワンワン」とほえました。 それを見ていた弘法大師もふきだしました。
大師は、おもわずひざをたたいて、竹かんむりに犬と書きました。
「竹カゴをかむった犬を見てわらうから、これでよい、これでよい。」
   「笑う」という字は、その時出来たというが、これほんとかな。
終わり